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ippuku

ものづくりが好きな塾講師のブログ

5/25
朝から高校へ出向く。十時前、少し早めに着いて誰もいない美術室に立つ。私は高校時代、美術選択ではなかったので、美術室に懐かしさは微塵もない。油絵を少し進めようかと言う時、初老の男性が美術室へ入ってきた。実習生であることを伝えると、少し驚いた顔をしながら月曜の美術担当の非常勤講師だと相手は自己紹介を始めた。私も50期生で、月曜の教育実習担当になることを説明するとそのまま授業についての簡単な打ち合わせになだれ込んだ。私は先週、心荒れた状態で描き殴った絵を未だ手に取らずにいたが、先生と話していた際にこれくらいは進めているとのことで恐る恐る絵を乾かし台から取り出した。私は少し驚く。黒しか載せていない油絵であるが、案外形になっていて、先生もいいじゃないですか、と言う。私も少しいいと思ったけど勿論口にしなかった。
一言で言えば良すぎる先生だった。20年間非常勤講師をしているらしいがその達観した感じなのだろうか、一切毒を見せないその姿にたじろいだ。私は高校にいると怒られるのではないかとずっとそわそわする。誰も怒らずにいる。私は何かの拍子に怒られる気がしている。だけど誰も私に対して怒らない。私はいつだって怒られることが怖い。ずっとずっと恐れている。世の中の人皆同じように思うのだろうか?

高校での見学から慌てて帰路につき、塾へ向かった。いつもの塾だ。塾だって何かをやらかしそうで怖いが、高校にいる時程ではない。私のこの恐れる原因は高校にあるのだろうか?

女子中学生が私を呼んだ。いつも相談に乗ったりよく話す帰国子女の子だ。彼女の周りの大人たちは塾の人も含めて皆彼女を面倒くさがるようだけれど、私はあんまりそうは感じなかった。不器用だけど、真っ直ぐで、想いはストレートに口にして、その癖に感情的で涙脆い。昔の私と重ねているだけかもしれない。その彼女がイライラして私の元へ来た。あの小さな女の子が他の先生に暴言を吐いていて凄く腹がたつから文句を言いに行きたいんだけど!と大声で言うところを慌てて抑えて教室の隅へ連れて行った。少し待っていてと伝えて、私はおやつのパンを取って彼女の元へ戻った。パンを食べながら私は彼女の話を聞いた。あんなに失礼な子は叱らなきゃいけない!どうしてあんなに暴言を吐かれている先生も黙っているのか!と。私は彼女を宥めた。例えば、そこであなたがその子に言ったとして、塾の問題になる、その子の親はどんな親だろうか?もしかしたら風評被害を生んでしまうかもしれない、噂はあっという間に広がり、塾の評判は下がり、潰れて、私を含めた何人もの人たちは路頭に迷うかもしれない。それであなたが責められて悪者になってしまうのは避けたい。怒りたい気持ちもわかる、私もあの子にはとても怒りたい。でも塾の費用を払っているのは親御さんだ、親御さんの教育方針でああゆう子に育つようにと言われればこちらは何も言えないのだ。と。彼女は静かに頷いた。そして言った。「すごくよくわかった。うん。それが大人になるってことなんだね。大人になるってことがどうゆうことかすごくわかった。確かに先生達が生活出来なくなったら困る。この街はきっとあっという間に噂が広がる。私の正義だけじゃ駄目なんだね。」
私は凄くショックを受けた。私は大人なのだと気付かされた。好きで大人になったわけじゃない。だけど私は十分大人なのだ。私は彼女の正義が凄く好きだ。それを抑えさせている私は大人で、それは凄く凄く悲しいことに思えた。
「私はあーゆー子、叱っちゃうけどねー、自分の気持ちは凄くわかるし、そうゆうところ好きやから、それはそのままでいて欲しい。」
私はちっぽけだ。これしか言えなかった。比べて彼女のパワーはずっとずっと大きかった。大人になるってちっともいいことじゃない。ショックを受けてこの日は家に帰った。